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売掛債権をSPCに売却するオリジネーターにとっては、その信用リスクが小さくても、証券化の対象となる債権の信用リスクが重要であるから、資金調達コストを抑えることができる。
また売掛債権などの資産を売却するのであるから、貸借対照表からその資産をはずすことになるので、銀行などが受ける自己資本比率の規制の観点からはリスク管理の効果をもたらす。 CBO、リバースモーゲージ、地震債券などは、広い意味でのストラクチャードフィナンシュランスの具体例である。
この節では、金融工学の「学」としての(リスクの)価格理論である無裁定価格理論を解説する。 この価格理論は経済主体概念から均衡価格理論を形成する経済学のそれとは異なる。
まず無裁定価格理論を理解することにしよう。 この理論では、金融商品の価格は、リスクなしで確実な利益を得る機会(裁定機会)を排除するように互いに調整されて市場で決まる、と述べるにすぎない。
しかしこの理論の内容は深く、その背無裁定性の概念である「ノーフリーランチ(ただメシの機会はない)」を数学的に定式化した、Hの無裁定価格理論を見てみよう。 その理論は、既に述べたように、完全かつ完備な市場を前提にしたとき、金融資産ならびに金融商品の価格は、リスクなしで利益を確実に(確率1で)生む機会(裁定機会)を排除するように相互に調整される、という市場の無裁定性原理から出発する。

そして以下に見るように、理論は、裁定機会を排除する条件が資産の間の相対価格の予測不可能性(マルチンゲール)であること、を導く。 ここで完備な市場とは、取引コスト、税はなく、各資産に対して空売りもふくめて任意のポジションを取ることができる市場である。
したがって、預金金利と貸出金利は等しく、銀行からいくらでも借りることができ、後に、商品の複製可能性の概念がある。 社会の中で、ある商品が他の商品を用いてポートフォリオにより一意的に複製可能である場合、市場は理論的な意味で完備であるという。
この完備性の概念は、リスクの視点から見た時どのような商品が社会の中で必要か、という判断基準を与える。 新しい商品の出現は、市場が不完備な状況にあるためにそれを埋める「不完備制度の完備化」プロセスと見ることができる。
天候デリバティブなどはその例と見る。 その資金で他の資産を買うことができる。
また株がなくても借りてきてそれを売り(これを「空売り」という)、資金を作りそれで別な金融資産を買うことができる。 もちろん借りた株は返す必要がある。
実際には借り株料を支払う必要があるが、完備な市場というときそれはないものとする。 この前提については後に議論する。
たとえば、資産として毎日金利がつく普通預金と特定な株式を考えよう。 そして銀行から一○○万円借りてくる。

理論は常に銀行は貸してくれるということを仮定している。 また取引コストがないということは、普通預金金利と貸出金利と銀行間取引金利(一日物)は等しいことを意味するので、銀行間取引金利で一○○万円借りることができる。
これを普通預金にマイナス一○○万円のポジションができたとみる。 この一○○万円の適当な額を株式に投資するが、残りは普通預金に入れる。
この普通預金と株式のポートフォリオ(資産の組み合わせ)の価値は、自分のお金を一切使っていないので、借金も含めて合計するとゼロである。 このとき毎日ポートフォリオを組み替えて、一ヶ月後にポートフォリオの価値が必ず(確率1で)正にできるとすると、リスクなしで利益を上げられるという裁定機会が生ずることになる。
このような裁定機会を許さないように毎日の銀行間取引金利と株価が互いに関係して変動するというのがノーフリーランチの状態である。 Bの株式オプション理論もこの無裁定性定理に含まれる。
実際、資産として株式、普通預金(もしくは債券)、オプションをとり、これらの資産間に裁定機会を許さないようにすることでオプション理論価格が導出される。 この無裁定価格理論を用いると、現存している金融商品の種類が、リスクの視点から見て社会全体として十分なのかあるいは不足しているのかを議論できる。
いま消費者や投資家が自分のリスク選好やライフプランから見て「かくかくしかじかの金融商品がほしい」といったとき、その商品が既存の商品で適当なポートフォリオ戦略のもとに「複製可能である」場合、そしてその複製法が一意的な場合、理論的な意味で市場は完備であるという。 したがって新しい商品の出現は、何らかの意味で市場が完備でないことを意味し、現在の制度が不完備であったり、社会の潜在的な需要を金融機関が十分認識していないことになる。
その中には複製するとコストが高すぎるような場合も不完備とみなされて、新しい商品が作り出されている。 新しい金融商品の出現をこのように見ると、金融の機能から見てその役割は重要である。
この点は後に不完備制度の完備化問題として更に議論する。 そのような意味を持つ無裁定価格理論をおもいきってそのまま述べ、では金融商品と金融資産は同義語として理解されたい。
さて、この定理の命題「相対価格がマルチンゲールならば無裁定」を次の順序でさらに詳しく理解しよう。 市場が完全かつ完備のとき、資産番号0からNのN+1個の金融資産の間に裁定機会を許さないためには、他の資産価格を第0資産の価格で割ったN個の相対価格(価格比)が適当な確率測度のもとでマルチンゲールとなることが十分である。
また、その相対価格のマルチンゲール性は適当な条件のもとで必要でもある。 物の価値は相対価値でしかみることができない。
定理でなぜ相対価格が出てくるかはそれと関係する。 ここでは番号0の資産を相対価値を測る基準資産として考えている。

すなわち、他の資産価格を第0資産の価格で割り、その相対価格の将来の変化のあり方をこの定理は述べている。 もし相対価格の変化を予測できるなら、ある資産は他の資産に比べて儲かることになる。
定理の「マルチンゲール」は、その予測可能性を否定する。 すなわち、相対価格の変動がマルチンゲールであるということは、簡単に言うと現在時点までの情報をもとに将来の相対価格を最適に予測しようとしても、上昇も下降も予測できず、現在の相対価格に等しい、という相対価格の平均的不変性を述べている。
以下ではこのことを詳しく見るが、最初読むときは飛ばしてもよい。 資産の数はいくらでもよいが、わかりやすくするために資産番号0,1,2の三つの資産を考える。
たとえば第0資産は普通預金であり、第1資産は株式である。 さて、リスクなしで確実に利益を得る可能性を排除する無裁定価格理論が成立するためには、少なくとも相対価格の予測可能性を排除することが必要であろう。
t時点でこのことが予測されるなら、資金を資産0から資産1に移したほうが利益可能性は大きくなる。 同様に、資産2と資産0の将来の相対価格についても予測可能性が排除されなければならない・問題は、予測可能性の意味である。
各価格は確率変数であるので、各時点での値は確率的に実現する。 相対価格のプロセスがこの式を満たすとき、相対価格はマルチンゲールに従うという。

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